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大分トリニータ 伊佐耕平 愛したクラブへ贈るラストメッセージ 【大分県】

大分トリニータ 伊佐耕平 愛したクラブへ贈るラストメッセージ 【大分県】

 一つの時代が終わり、新たな挑戦が始まる。伊佐耕平が大分トリニータを離れる。在籍13年。数々の歓喜と苦難をともにしてきた男を思い返した時、真っ先に浮かぶのは記録ではない。どんな時もクラブのために走り続けた、その姿である。

 大学卒業後に加入し、13年間にわたって大分のエンブレムを背負い続けた。J1昇格も降格も経験し、歓喜も挫折も味わった。その歩みは、近年のクラブ史そのものと言っていい。シーズン終了後に今季を振り返った伊佐は「早かった。本当にあっという間だった」と穏やかに語った。しかし、その言葉の奥には勝利を追い求め続けた日々が詰まっている。

 「どうしたらチームが勝てるか」を常に考えていた1年だったという。ゴールを奪うことだけではない。チームとして何が必要なのか。どのように仲間を生かすのか。年齢を重ねる中で、伊佐の視線は自分だけでなくチーム全体へと広がっていった。

 もともと伊佐は、数字だけで語られる選手ではない。ゴールを目指して走り、体を張り、仲間を助ける。その献身によってチームを支えてきた。そして今、その視線はさらに広がっている。前線からの守備、味方との連動、試合の流れを読む力。伊佐の真価は数字だけでは測れない。相手のトラップやパスのタイミングを見極めながら圧力をかけ、守備のスイッチを入れる。その献身的なプレーは歴代監督から高く評価されてきた。

前線から献身的に守備をする伊佐

 セットプレーでも欠かせない存在だった。サインプレーの理解力、相手や風向きを踏まえた瞬時の判断。派手さはなくともチーム戦術を支える頭脳であり続けた。それでも本人は自身の成長について問われると笑う。「まだまだ下手やし、全然満足していない。本物になるまであと20年ぐらいかかる」

 13年間プロとして戦い続けたベテランが口にしたのは、達成感ではなく向上心だった。サッカーの奥深さを知るからこそ、自分はまだ未完成だと言い切る。その姿勢こそが伊佐という選手の本質なのかもしれない。

 クラブ愛を象徴するエピソードもある。新型コロナウイルスの影響でチーム活動が止まった時期、伊佐は誰に頼まれるでもなくスポンサー企業を1社ずつ訪ね歩いた。会社の前で写真を撮り、感謝の言葉を添えて発信する。クラブを支えてくれる人たちへの恩返しだった。

 その行動は決して目立つものではない。しかし、クラブを愛し、地域に支えられていることを誰より理解していたからこそできた行動だった。

 だからこそ、最後に語った言葉も自分の未来ではなかった。「大分の子どもたちのためにも、一番いいステージで戦ってほしい」。結果が出なかった今季についても、「この経験が無駄だったとは思わない」と言い切った。若手だけの問題ではなく、チーム全員の責任。必要なのは戦術以前に、一人一人の意識の積み重ねだと語った。

「大分の子どもたちのためにもJ1で戦ってほしい」とメッセージを残した

 そこには13年間、クラブの浮き沈みを見続けてきた男だからこその重みがある。そしてサポーターへの言葉は、どこまでも伊佐らしかった。「感謝しかない」。苦しい時も勝てない時も、声を届け続けてくれた存在。その支えがあったからこそ戦えたという。クラブを去ることになっても、その思いは変わらない。「これからもクラブを支えてほしいし、自分自身も大分というクラブのことをずっと応援している」

 13年間、誰よりもクラブのために走り続けた男。その背中は大分のピッチから消える。しかし、勝利のために献身し続ける姿勢も、地域への感謝も、クラブを愛する心も、確かに次の世代へ受け継がれていく。伊佐が残したものは数字ではなく「大分らしさ」そのものだった。 (柚野真也)


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