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夏の主役たち2026 野球 守備で勝利を呼ぶ男 菅原翔空(大分商業3年) 【大分県】

夏の主役たち2026 野球 守備で勝利を呼ぶ男 菅原翔空(大分商業3年) 【大分県】

 決して大きな体ではない。それでも大分商業の遊撃手・菅原翔空(とあ、3年)がグラウンドに立つと、不思議と守備陣全体が引き締まる。打球を予測して一歩目を先に動かし、仲間へ声をかけ続ける。その姿は数字には表れない安心感をチームにもたらしてきた。

 その存在感が最も際立ったのが、第108回全国高校野球選手権大分大会準決勝の明豊戦だった。九回表、大分商業は同点に追い付かれる。6連覇を狙う明豊の勝負強さが牙をむき、球場の空気は一気に相手へ傾いた。それでも大分商業は動じなかった。

 九回裏、先頭で打席に入ったのは9番・菅原だった。「塁に出ることだけを考え、思い切り振った」。その一振りは左中間を破る三塁打となる。七回にも三塁打を放っていた小兵が、再び試合を動かしたのだ。続く木村颯汰(3年)の打球で迷わず本塁へ突入。頭から滑り込み、歓喜のホームを踏んだ。

守備からチームに勢いをもたらしたいと語った菅原

 主役はエースでも四番でもない。守備を武器にしてきた9番打者が、大一番のヒーローになった瞬間だった。だが、本人は「あの長打はたまたま」と笑う。狙っていたのは三塁打ではない。「次につなぐ」ことだけだった。結果よりも役割を優先する姿勢が菅原という選手の本質である。

 決勝の津久見戦でも、その姿勢は変わらなかった。守備では堅実にアウトを積み重ね、打線では上位へつなぐ役目を果たす。大分商業は6―2で勝利し、13年ぶり16回目の甲子園出場を決めた。派手な数字を残さなくても、菅原が守る遊撃には不思議な安定感があった。

 その安定感は偶然ではない。守備につけば、相手打者の特徴や配球を頭の中で組み立てながらポジションを微調整する。試合前には映像を見返し、打球が飛ぶコースまでイメージする。「打球が来てから反応するのではなく、来る前に準備する」。そんな積み重ねが広い守備範囲につながっている。

 高校入学時から遊撃手だったわけではない。中学までは一塁手。高校1年の夏前に遊撃手へ転向すると、不思議なほど違和感はなかったという。ノックでも自然に体が動き、「このポジションでいける」という感触を得た。その秋にはレギュラーを勝ち取った。

冬場の筋力アップで長打が打てるようになった

 さらに、この一年で変わったものがある。責任感だ。最上級生となり、守備位置から仲間へ積極的に声をかけるようになった。「自分がチームを動かす」。その自覚がプレーにも表れている。打撃にも成長の跡が見える。冬場は毎日の素振りに加え、ベンチプレスやスクワットなどの筋力トレーニングを徹底。それまで外野を越えなかった打球が、春先から伸び始めた。準決勝の2本の三塁打は努力が実を結んだ証しでもある。

 それでも菅原は現状に満足していない。今大会、失策はゼロだったが「もっと投手を助けられる守備がある」と言い切る。難しい打球にも体を張り、アウトを一つでも増やす。それが自分の役割だと考えている。

 身長は164センチ。「小さいのに」と見られることも少なくない。「気にはなる。でも、『見てろよ』という気持ちのほうが強い」。その負けん気が菅原を支えてきた。憧れるのは同じ164センチでプロ野球界を駆け回る埼玉西武ライオンズの滝澤夏央。広い守備範囲と俊敏な一歩、左右に打ち分ける打撃。その姿を理想像として追い続けている。

 野球を始めた頃からの夢だった甲子園。その舞台は、もう目前にある。「出場するだけではなく、一つでも多く勝ちたい」。派手なホームランはなくてもいい。守備で流れをつくり、一本の安打で試合を動かす。それが菅原の信条だ。小さな背中が大きな流れを呼び込む。甲子園でもきっと大分商業らしい野球の中心に立っているはずだ。 (柚野真也)