大分トリニータ 開幕前チームレポート 主体性が生む進化の形 【大分県】
サッカー
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新体制発表会見の壇上で、小田逸稀はいきなり空気をつかんだ。「自分のことを“いっちゃん”と呼んでください」。柔らかな笑いが広がる。ピッチでは激しく、ロッカールームでは人懐っこい。その振り幅こそ、今季の大分トリニータが求めた新戦力の魅力である。
東福岡高から鹿島アントラーズに加入し、町田、千葉、福岡、松本と渡り歩いた。プロで積み重ねた年月は、小田のプレーに技術だけではない深みを与えている。サイドでの1対1では、相手の足元だけを見ているわけではない。表情や立ち振る舞いまで読み取り、心理の隙を探す。「表情一つで相手より優位に立てることもある。苦しくても、できるだけ涼しい顔でプレーしようと思っている」
6月の「JリーグオールスターDAZNカップ」で対戦経験のある選手から「小田のああいうプレーは嫌だった」と明かされた。相手が嫌がる位置へ走り、球際では体をぶつけ、何度もサイドを上下する。そのしつこさが、知らぬ間に相手の余力と集中力を削っていく。

豊富な運動量から繰り出すクロスに加え、跳躍力を生かしたヘディングも武器である。松本で戦ったJ2・J3百年構想リーグでは、主に中盤で起用されながら4得点を記録した。大分でも右ウイングバックを担い、「ただボールを失わないための攻撃ではなく、ゴールを奪うための攻撃をしたい」と言い切る。逆サイドからのクロスに飛び込む形は、福岡時代から磨いてきた得点パターンだ。今季の目標は10得点関与。クロスを供給するだけのサイドプレーヤーに収まるつもりはない。「得点の方が多くなりそうな気がする」と笑う言葉にも自信がにじむ。
小田を大分へ呼び寄せたのは、鹿島時代から知る吉岡宗重スポーツダイレクター(SD)である。19歳の頃からプレーとメンタリティーを見てきた吉岡SDは、昨年から獲得候補に挙げていた。「経験もあるし、積極的に発言してチームを盛り上げられる。愛嬌(あいきょう)のある本当に明るい選手」。かつて鹿島で出場機会をつかめなかった小田に、福岡での挑戦を勧めたのも吉岡だった。別々の道を歩んだ二人が年月を経て大分で再び交わった。松本からは残留を望まれていたが、小田はより高いレベルで戦う決断をした。そこには、プロ生活で培ったものを新しい場所で試したいという覚悟があった。

小田に期待されているのは、鳥栖へ移籍した吉田真那斗の代役だけではない。少しおとなしいチームに新しい活気をもたらすことも、大きな役割の一つだ。宮崎キャンプではキャプテンの榊原彗悟と同部屋となり、サッカーについて語り合う時間を重ねた。「寝るのも早いし、意識も高い。本当に想像通りでした」と笑う一方で、榊原の姿勢から刺激も受けた。さらにトランプで遊ぶなど、グループの垣根を越えて積極的に選手たちと交流。「若手とベテランをつなぐ存在になりたい。若手も遠慮せず意見を言える雰囲気をつくりたい」。持ち前の明るさとコミュニケーション力で、チームの一体感を高めようとしている。
声を掛け、ときには仲間をいじり、張り詰めた空気をほぐす。ただし、目指すのは仲の良い集団ではない。一人一人が勝敗に責任を持つ「戦う集団」である。涼しい顔でサイドを駆け上がり、鋭いクロスを送り、自らもゴール前へ飛び込む。そしてピッチの外では、人と人をつなぐ。小田が大分にもたらすものは、右サイドの推進力だけではない。チームの空気そのものを前へ動かす力なのだ。 (柚野真也)
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