夏の主役たち2026 重量挙げ女子 運を拾い続け日本一を目指す 宮園こはく(国東3年) 【大分県】
ウエートリフティング
全九州高校体育大会 重量挙げ
6月13日 宇佐高校体育館
女子63キロ級 優勝
乙咩侑未169キロ(スナッチ77キロ、ジャーク92キロ)
バーベルを握る直前まで、自分が何位にいるのかを知らなかった―。全九州高校体育大会の重量挙げ女子63キロ級。乙咩侑未(おとめ・ゆうみ、宇佐2年)はスナッチ77キロ、クリーン&ジャーク92キロ、トータル169キロで優勝した。だが、その表情に大きな安堵(あんど)や達成感はなかった。
「周りを見ると自分に集中できなくなるので見ない」。大会後にそう語った乙咩は、順位やライバルの記録を気にすることなく、ただ目の前の1本に向き合っていた。スナッチ3回目で77キロを成功させた時点では首位と1キロ差の2位。ジャークで逆転可能な位置につけていたが、その状況すら知らなかったという。
「自分が練習してきたことを出すだけだった」。重量挙げは駆け引きの競技でもある。相手の重量設定を見ながら戦略を変える選手も少なくない。しかし、乙咩は違う。重量設定はすべて梶原誠監督に任せる。「先生との絶大な信頼関係がある」と迷いなく言い切る。その信頼があったからこそ、ジャーク1回目の92キロを成功させてトップに立ち、そのまま逃げ切ることができた。

もっとも、本人は満足していない。ジャーク後半の2本は失敗した。「最後は絶対に挙げると思っていたけど失敗した」。悔しそうに振り返る姿に、優勝者の満足感は見当たらない。その理由は今春の全国高校選抜大会にあった。乙咩は優勝目前で逆転を許し、準優勝に終わった。わずか1キロ差。しかし、その1キロが大きかった。「優勝と準優勝では全然違う」。その悔しさが、乙咩に全国制覇への強烈な執念を生み出した。
県高校総体後はフォーム改造に着手した。仲間たちが重い重量に挑戦する中、自身は軽い重量を何度も繰り返した。重点的に取り組んだのは「返し」の動作である。バーベルに引き上げる力を伝えた後、手首を回すのではなく、肘を外側から前(上)に向かって素早く回し込む動作だ。「苦手な部分をずっと反復した」。派手さよりも地道な積み重ねを選んだ。その成果が今回の優勝につながった。
もっとも、乙咩は自分の強みを聞かれると「(生まれ持った)筋力」と即答する。小学時代は柔道、中学時代は陸上競技に打ち込んだ。転機となったのは中学3年時に参加した「チーム大分ジュニアアスリート発掘事業」だった。さまざまな競技を体験できる環境の中で、乙咩が選んだのは重量挙げただ一つだった。「最初から重量挙げ一本だった」。テレビで見た競技への憧れが原点だった。
全国中学生大会にも出場し、高校から本格的に競技へ打ち込んだ。まだ競技歴は決して長くない。それでも全国トップクラスまで駆け上がった。だからこそ本人も、自らの伸びしろを信じている。「今はパワーだけで挙げている感じ。フォームを磨けばもっと伸びると思う」。そう語る表情は明るい。
今回の優勝後も乙咩の関心は次の大会に向いていた。全国高校総体で目指すのは優勝。それも接戦ではない。「1キロ差じゃなくて、もっと差をつけて勝ちたい。圧倒的に優勝したい」。さらに「出られる全国大会は全部優勝したい」と言い切った。その言葉には迷いがない。

一方で、高校生らしい素顔ものぞかせる。試合で身につけるテーピングやリストストラップ、靴ひもなど青色で統一されている。「もともと青が好き。それに推しのメンバーカラーが水色なので」。理由を聞くと照れ笑いを浮かべる。
そして最後にこんな本音も明かした。「最後の試技を決めたかった。あれを成功させて目立ちたかったなって(笑)」。目立ちたがり屋で、負けず嫌い。だからこそ人一倍、高みを求める。全国選抜で味わった悔しさも、九州大会での優勝の喜びも、そのすべてを次への力に変えている。水色の勝負カラーを身にまとい、周囲の雑音を遮断してバーベルと向き合う乙咩。その視線の先にあるのは全国の頂点だ。 (柚野真也)
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