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それぞれの選択② 陸上女子棒高跳び 金子絵美里(大分西高校3年)

それぞれの選択② 陸上女子棒高跳び 金子絵美里(大分西高校3年)

 人生には岐路がある。競技人生に没頭する道もあれば、これまで続けた競技に別れを告げる道もある。確かな足跡を残したアスリートには「それぞれの選択」の物語があった。第2回は陸上の女子棒高跳び・金子絵美里(大分西高校3年)。

 

 「日本一になって競技人生を終えたい」。長いスランプから脱け出した今年6月に大きな目標と強い覚悟を決めた。女子棒高跳びの金子絵美里は、8月の全国高校総体で自己ベストの3㍍80をクリアし5位となった。「感触は悪くはなかった」。踏み切るスピードと感覚、バーに向かって空中を体が舞い上がる高揚感。初めてポールを持ち、バーを越えた頃を思い出した。その3週間後、集大成の場と位置付けた全国高校陸上選抜大会では、3㍍60の4位で終わる。順位も記録も満足できるものではなかったが、「やり切った。悔いはない」と話す表情に一点の曇りもなかった。

 

 小学1年から陸上を始めた。当初は短距離の選手で、次第に走り幅跳びなど跳躍系の競技で実力を発揮する。北京オリンピックで女子棒高跳びの金メダリストになったエレーナ・イシンバエワが空高く舞い、バーを越える姿に憧れた。小学4年で陸上競技から離れ体操競技に打ち込んだが、その3年間は遠回りではなかった。中学1年で陸上に復帰し、棒高跳びを本格的に始めたが、空中動作は体操で培った経験が肥やしとなった。外部コーチとして指導した汐月友典氏は、初めて指導した直後に長いポールを簡単に操り、バーを越えた金子をみて驚きを隠せなかった。「助走が速く、踏み切る感覚は天性のもの。すぐに全国上位になる」と確信した。

全国高校陸上選抜大会で4位入賞した金子絵美里

 

 明朗快活。明るく前向きに練習に取り組み、周りを元気にする。コーチの立場からすると教えがいのある選手だった。「のみ込みが早く、直感でなんでもできた」(汐月コーチ)。中学3年時には全国ランキングベスト10入りし、高校1年時に一気に記録を伸ばす。3㍍70を飛び、周囲の期待は高まった。金子自身、全国大会や強化合宿に参加するたびに、競技レベルが高く、向上心の高い選手と時間を過ごすことで日本一を意識するようになった。

 

 しかし、突如陥ったスランプは深刻だった。高校2年になった頃、自己ベストが止まった。金子は「結果が出ない焦りから、バーを持つことも、踏み切ることも怖くなった。練習不足になり負の連鎖が続いた」と振り返る。楽しかった練習が苦痛でしかなくなった。葛藤を抱えたまま時間だけが過ぎる。悩んだ末、いつも傍らで指導してくれた汐月コーチに悩んでいること全てを吐き出し、時間をかけてそしゃくし、原点に帰った。「棒高跳びは周りと争うのではなく自分との戦い。記録は練習すればするほど伸びる」。1年かけてたどり着いた答えはシンプルだった。

 

 「悩んだ時期があるから今がある。最後の3ヵ月は楽しむことができた。これからは選手を支える立場になりたい」。汐月コーチら多くの陸上関係者から現役続行を望む声があったが、未練はなかった。最後の大会を終えて1週間後。文化祭のステージにはMCの大役を任せられ、バック転を披露する人気者の姿があった。残りの高校生活を満喫し、理学療法士の夢をかなえる道に進む。

 

 

 今後は選手を支える仕事を目指す

 

(柚野真也)

大会結果