
珠玉の一枚 Vol.41 【大分県】
その他
J2リーグ最終節で6年ぶりのJ1復帰を決めた大分トリニータ。就任1年目でJ3からJ2に昇格させた片野坂知宏監督は、同一クラブで史上初の“2段階昇格”の偉業を達成した。信念を貫いた指揮官の今季の戦いぶりと采配の秘密に迫った。
就任1年目の片野坂監督は、広島でのコーチ時代に影響を受けたペトロヴィッチ監督(現・札幌)のスタイルを参考に、GKを含めた後方から丁寧なパス回しをして、攻撃を組み立てるサッカーを志向した。それはプレースタイルの面において一つの形となったが、プレーの質が上がっただけでは昇格に結びつかなかった。
「点を取らなければ勝点3は取れない」(片野坂監督)。昇格のための最大の課題がそこにあると考えた。そこで3年目の今季は、丹念にボールを回しながら相手の隙を探す作業に特化した。プレスのかけ方や、ポジション取り、ボールを奪った後の動きなどを、具体的なアクションを交えながら事細かに選手に示した。「今年はウオーミングアップからやり方が変わった」と安田好隆コーチ。「前の試合の修正を落とし込み、自分たちはどんなプレーをしたいのか、相手はどんなプレーをするのか。選手に意識させた」
今季の基本システムは、3—4—2—1。1トップ2シャドーが互いにスペースをつくっては、そのスペースに流動的に動きながら、相手のほころびを突く。中盤は両サイドアタッカーと2ボランチ。ピッチの横幅を広く使い、ボランチが大きなサイドチェンジを駆使する。守備時は両サイドが最終ラインに加わり5—4—1のブロックをつくる攻守のバランスを重視した戦術を採用した。
J1昇格を決め、選手と喜びを分かち合った
しかし、相手が変われば戦術も変わる。戦術が変われば選手起用も変わる。今季の片野坂監督の選手選考には3つの基準があった。①ゲームプラン②コンビネーション③コンディション。相手を分析したうえで誰が攻略に適した人材かを見極め、選手の特徴をうまく組み合わせ、練習でのパフォーマンスの良し悪しを判断する。ゲームプランとコンビネーションは、指揮官の采配に委ねられるため、選手がどうこうできる範疇(はんちゅう)にない。「今年は特にメンバーを代えたり、先発を代えた。選手は何で出られないんだと思ったはず」と片野坂監督。結果が出なければ、チームが空中分解する危険性もあったが、指揮官は信念を貫いた。
そのブレない戦い方、選手選考、采配は、チーム全体の競争力、モチベーションを高め、一体感をもたらした。「いろんな選手が試合に出て活躍する。負けられないとみんなが思っていた」と馬場賢治は明かす。今季の大分の特徴として途中交代の選手や出場機会の少なかった選手が活躍して、チームの結果につなげた。サブメンバーを含めて全ての選手が戦っていた。その雰囲気をつくった指揮官の功績は大きい。
片野坂監督が3年かけて築いた土台は一つの成果を挙げた。もちろん、指揮官は満足しないはずだし、来季の続投も決まり、J1での戦いに向けて今オフは戦力補強に動くはず。「基本ベースを継続しながら、これまで積み上げた大分のサッカーがJ1でどれだけ通用するか挑戦したい。補強に関してはポジションと選手の名前は強化部に提示している」。6年ぶりのJ1では苦戦するだろうが、厳しい戦いや幾多の修羅場をくぐり抜けてこそ真の強さを身につけることになる。目標はJ1残留であるが、「戦いの中でJ1に定着できる力をつけ、戦える選手を育てる」。すでに頭の中では来季の戦いが始まっている。
昇格報告会で来季も指揮することを報告した
(柚野真也)
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