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九州地区高校野球大会県予選 2桁背番号から優勝投手へ 倉光俊輔(大分上野丘3年) 【大分県】

九州地区高校野球大会県予選 2桁背番号から優勝投手へ 倉光俊輔(大分上野丘3年) 【大分県】

 静かなマウンドに立つ左腕は、決して豪速球でねじ伏せる投手ではない。だが、打者はなぜか打ちあぐねる。第158回九州地区高校野球大会県予選で77年ぶりの優勝を果たした大分上野丘。その中心にいたのが、背番号1を背負った倉光俊輔(3年)である。

 全5試合に先発し、計630球を投じ抜いた。数字だけ見れば過酷な連投だが、倉光の言葉は意外にも淡々としている。「試合がない日はトレーナーのところで体の使い方を見てもらっていた」。特別なことをしたわけではない。ただ、下半身の使い方、体重移動、力の伝え方。その連動をつかんだことが、すべてを変えた。

 転機は大会の中にあった。フォームを大きく変えたわけではない。だが「右足のブレーキ」を意識することで、浮いていた球が低めに収まりはじめた。試合の中で感覚を修正し、再現する。その繰り返しが、技巧派左腕を完成へと近づけていった。

全5試合に先発した倉光

 最速131キロ。決して目を引く数字ではない。それでも倉光は打たれない。理由は明確だ。カットボールを軸にした投球術である。「カウントも取れるし、決め球にもなる」。直球に頼らず、変化球で打者のタイミングを外す。球速ではなく、間と配球で勝負する。その冷静さが、連投の中でも揺らぐことはなかった。

 決勝のマウンドも例外ではなかった。疲労はあった。「試合間隔が1日しか空かなくて、かなりきつかった」。それでも家でもグラウンドでも、徹底して体のケアに時間を割いた。その積み重ねが、最後の1試合を支えた。

 序盤に3点をリードしたことで、気持ちは少し楽になった。それでも油断はなかった。打球が飛べば仲間がしっかり守ってくれるという安心感があり、それが落ち着いた投球につながっていた。一人で抑えるのではなく、チーム全体で守り勝つ。その意識がマウンドでの安定感を生んでいた。

 思えば、昨年の秋の時点での立ち位置は2番手、あるいは3番手だった。エースではなかった。それでも腐らなかった。「いつか出番が来る」。松田幸史監督が語るように、その準備と我慢が、この春に結実したのである。

 背番号1を背負った今大会。エース候補がケガで投げられない中、「自分がやるしかない」と腹をくくった。だが、試合を重ねるごとに手応えをつかみ、「一人でもやれる」と自信に変わっていった。勝つたびに喜びはあったが、その一方で「次も投げなければならない」という重圧も増していく。それでも、その責任を受け止めながらマウンドに立ち続けた。

「九州大会でも丁寧なピッチングで打ち取りたい」と語った

 理想はシンプルだ。「初球ストライクを取って、低めに集める」。派手さはない。だが、その徹底こそが信頼を生む。エースとは特別な球を持つ者ではない。試合を壊さず、流れを渡さない者である。倉光は、この大会でその意味を体現した。

 中学時代に九州大会を経験し、高校ではベンチから試合を見つめることが多かった。そして今、自分の力で次の舞台への切符をつかんだ。「自分のピッチングをするだけ」。その言葉に気負いはない。だが、この春で確かな手応えをつかんだのも事実だ。倉光はエースとしての自覚を手に入れた。とはいえ、まだ完成ではない。夏に向けて、さらに成長していく余地がある。着実に、一歩ずつ。左腕の挑戦は、ここからが本当の勝負だ。



(柚野真也)