
大分東明高校アーチェリー部 池田美緒(3年) file.858
アーチェリー
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悲願の頂点まで、あと一歩だった。全国高校総体(インターハイ)アーチェリー女子団体で大分東明は決勝に進出し、準優勝。個人でも2位に入ったエース石井美羽(3年)は「勝てる自信があっただけに悔しい」と振り返った。予選を1位で通過し、準決勝までは高得点を連発する圧倒的な力を見せたが、決勝は天候と風に翻弄(ほんろう)され、思うような射ができなかった。石井自身も序盤で失投し、流れをつかめなかったことを悔やんだ。
それでも、ただ下を向いたわけではない。流れを変えようと石井は立ち番(射る順番)を入れ替え、緊張気味の1年生を先頭に置いた。後輩に勢いを与え、自らは3番手で勝負を背負う。結果は惜敗に終わったが、苦しい場面で冷静に状況を見極め、チームを立て直そうとする姿勢は、最上級生としての責任感を物語っていた。
石井は中学3年時に沢田こころ(3年)と共に国体少年女子で頂点に立ち、その後も国体連覇を果たすなど常に第一線で戦ってきた。だが、インターハイでは最高が3位で、今大会こそと燃えていた。今年は準優勝に終わったが過去最高成績を残した裏には、練習量を人一倍増やし、後輩を気遣いながら自らを高めた3年間の積み重ねがある。
競技を始めたのは中学1年の時。母が弓道経験者だったこともあり「自分も弓が合うのでは」と軽い気持ちで始めた。練習に行けば毎回監督にお菓子をもらえることを楽しみにしていた。最初から的に当たる感覚はあったが、それを深めようとまでは考えず、どこか遊び心の延長だった。
中学3年になると東京の強豪・稲付中に転校。練習量の多さや厳しい環境に「なぜここまでやるのか」と意欲を見失い、競技に向かう気持ちはしぼんでいった。だが、高校進学とともに大分に戻り、大分東明の仲間と出会ったことで状況は一変する。練習に真剣に打ち込む姿、団体戦にかける情熱に触れ、石井自身も心を揺さぶられた。次第に「勝ちたい」「もっと上を目指したい」という気持ちが芽生え、競技がただの習い事から人生を懸ける対象へと変わっていった。「団体戦が楽しい」と心から思えるようになったのは、この3年間をともに過ごした仲間の存在があった。日々の練習を重ねるうちに、石井の中で競技への意識は確実に変わっていった。勝負の場でこそ本気を発揮するタイプだった石井が、日常の練習から自らを追い込むようになった。
そんな成長を決定づけたのが、昨年秋のU―21日本代表選考会である。シニア代表入りを目指す中で「もっと自分を高めなければ」と本気のスイッチが入った。以来、練習に打ち込み、持ち前の引き手の強さをさらに磨いた。風が吹こうとも押し切る力強さは、筋肉質な体から生まれる天性の武器である。
今年はU―21代表に選ばれたが、本人にとっては通過点にすぎない。「年齢制限のある代表ではなく、シニアに選ばれてこそ意味がある」。その言葉には、未来を見据える覚悟がにじむ。次なる舞台は国スポ。昨年は準優勝に終わったが、石井は「必ず優勝」と誓う。そしてその先にあるのは全日本選手権、ナショナルチームとなるシニア代表入り、そしてオリンピックだ。「オリンピックに出る以外、私は競技をやめられない」と言い切る姿は、すでに世界を見据えている。
(柚野真也)
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