
3年生、夏物語 野球 信頼背負い進む 明豊キャプテンの覚悟 【大分県】
野球
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第107回全国高校野球大分大会
7月24日 別大興産スタジアム
準決勝
明 豊 030 000 011|5
鶴崎工業 000 000 000|0
0ー5。スコアだけを見れば完敗だった。だが、そのマウンドには確かに“信頼”があった。準決勝、明豊との一戦。ノーシードながら2戦連続でシード校を撃破し、2006年以来となるベスト4進出を果たした鶴崎工業。その快進撃を支えたのは、小学4年からバッテリーを組んできたエース白石琉唯(3年)とキャプテン・捕手の桝田龍之介(同)の二人。
「今日も頑張ろう」。この大会でのルーティンとなっていた試合前のグータッチ。ロッカールームを出るその瞬間に交わす無言の誓いが、二人の絆を物語っていた。言葉は少なくとも、互いの目を見れば伝わる。「今日もいつも通りやろう」、「信じて投げてくれ。俺が全部止める」。そんな思いが込められていた。白石にとって、桝田の存在は単なるバッテリーの相棒ではない。苦しいときに背中を押してくれる存在であり、マウンドに立つ自信そのものだった。どんな強敵が相手でも、桝田となら乗り越えられる。そんな静かな覚悟が、あの瞬間にはあった。
3連投となった白石の腕に疲労がなかったわけではない。それでも中盤のピンチを冷静にしのぎ、テンポよくアウトを重ねた。自らの強気の投球を信じ、その裏にはどんなボールでも止めてくれる桝田の存在があった。「後ろにそらさないから、思い切って腕を振れる」。白石はそう語る。マウンドとホーム。視線を交わすだけで意図が伝わる関係が、そこにはあった。
だが、最後の舞台は甘くなかった。準々決勝までに23得点を叩き出してきた鶴崎工の打線は、明豊の完成度の高い投手リレーにわずか3安打に封じ込まれ、反撃の糸口すらつかめなかった。0ー5の完封負け。それでも白石は、崩れることなく最後までマウンドを守り抜いた。試合後、ベンチに戻った白石は、誰よりも長く同じ時間を共有してきた桝田に言葉をかけた。「今までありがとう。お前がキャッチャーでなかったら、ここまで投げられんかったよ」。小学4年から積み重ねてきた10年以上の時間、グラウンドで交わした無数のサインと視線、苦楽をともにした記憶。そのすべてが、たったひと言に込められていた。
「本当に頼もしくて、最高のピッチャーでした」。試合後、桝田は悔しさをにじませながらも、誇らしげに語った。白石の球を誰よりも長く、誰よりも近くで受け続けてきた捕手だからこそ分かる成長があった。二人は時にぶつかり合いながらも支え合い、信頼を深めてきた。そんな日々の積み重ねが、この夏、ひとつの形になった。
勝てなかった悔しさは、簡単には消えない。だが、それ以上に大きなものを二人は手にしていた。「このチームで戦えた日々が宝物」。桝田のその言葉が、すべてを物語っている。たとえ敗者であっても、その夏の輝きは決して色褪せない。
(柚野真也)
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