
珠玉の一枚 Vol.41 【大分県】
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全国高校総体(インターハイ)を目標に競技を続けてきた3年生にとって非情な知らせが届いたのは大会前日だった。校内で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、数人の部員に感染が確認され、県高校総体の出場辞退を余儀なくされた。
3月の全国高校選抜大会の出場を逃したハンドボール男子の大分にとってラストチャンスとなった全国舞台。前キャプテンの石川司門(3年)は「何も考えられなかった。目標としていた舞台に挑戦することさえできなかったのだから」と述懐する。石川は全国高校総体に憧れ、大分中学・高校に入学した。「6年間インターハイに出ることを目標としてきた」だけに落胆は大きかった。
「あの日のことは忘れられない」と語ったのは藤家圭二コーチ。秋の県高校新人大会、冬の全国高校選抜大会県予選で大分雄城台に敗れ、もう一度原点に帰って、基礎練習から徹底して見直し、筋力・体力強化を課した。全国高校総体に向けて努力した3年生の姿を一番近くで見てきた藤家コーチは3年生9人の家を一軒一軒訪れたが、顔を見ることができなかった。「これまでよく頑張った」とねぎらい、大学で競技を続ける選手には「ここで気持ちが折れたら終わる。悔しさをこの先につなげることができるかどうかは自分次第だ」と声を掛けるのが精一杯だった。
大学でも競技を続ける石川司門
やり場のない悔しさと虚しさを抱える3年生に、県ハンドボール協会が救いの手を差し伸べたのは、その数週間後だった。救済措置として高校と大学、社会人チームで争われる日本選手権の「九州ブロック大会県予選大会」への出場を認めた。例年なら出場枠は県高校総体優勝校1校だが、今回は大分雄城台と大分が高校代表として出場し、社会人チーム「UNION」とリーグ戦で県代表の座を争った。自宅待機で練習できる時間はわずかだったが、3年生はこれまで歩んできた日々の思いを試合にぶつけた。結果は3チームが1勝1敗で並んだが、得失点差で大分が優勝し、9月の九州ブロック大会の出場を決めた。
この県大会を最後に3年生のほとんどが引退。古林怜央(同)は「自分たちが出場できなかったインターハイ、全国選抜に出てほしい」と後輩に思いを託した。卒業まで部活動を続け、国体や日本選手権出場を目指す石川は「これまでお世話になった方々に恩返しができなかったのが心残り。この経験ができたのは限られた人だけ。貴重な経験として今後の競技人生や、その後、指導者になったときに生かしたい」と力強く語り、次のステップへ踏み出した。
3年生の思いを引き継いだ1、2年生
(柚野真也)
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