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監督の哲学 選手の自主性を重んじ向き合う智将 帝京大学女子柔道部・穴井さやか監督 【大分県】

監督の哲学 選手の自主性を重んじ向き合う智将 帝京大学女子柔道部・穴井さやか監督 【大分県】

 大分県出身の穴井さやかが母校の帝京大学の女子柔道部の監督となって2年が経過しようとしている。2023年度は「個人も団体も日本一」を目指す年になる。勝つためには選手間で相乗効果が生まれる組織をつくり、成果を出すことを求めている。

 

 選手が自主的に考え、動き、それを畳の上で表現する。穴井監督は「大学で柔道をするような学生はある程度の素質がある。高校までに教わったことが点とすれば、大学はその点を結ぶ作業。多くの選手が、なぜこの技術が必要で、どう使うのかわかっていない。原理原則を理解し、勝つために点と点をどう組み合わせたらいいのか、そこに気づかせるのが私の役回り」と話す。

 

 答えを与え過ぎては、選手の自主性を妨げかねない。ただ、「選手によっては具体的に何かを指示した方が伸びる、あるいはそれを望んでいる場合もある」。そのタイミングと伝え方は意識しているようだ。「とにかく選手一人一人と向き合いたい」

 選手に改善してほしいことがあれば、明確な理由を三つ以上言えるようにしてから伝える。「イエスかノーの世界で育ってきた学生が多いので、一方的に伝えるのではなく、『あなたはどう思うか』という余地を残している。真剣な話をするときは1対1で向き合う。前提にあなたが嫌いなのではない、怒ってないことを伝え、理由を説明する。自分の頭で整理して話し、その場の勢いでは言わない」

 

選手には自主性を求める

 

 現役時代は全日本選手権や国際大会で活躍した穴井監督は、引退後の2014年4月に帝京大のコーチとなった。その2年後に大学の助教授となり、監督代行を経て、2021年4月から監督となったが、指導者としての道のりは決して順調だったわけではない。勝てない時期を経験したが、自らの実体験だけでは引き出しが少なく、多くの指導者から指導論を学んだ。その一つが組織づくりだった。柔道は個人競技だが、集団で練習している以上は環境を整えることが重要だと気づいた。「一人一人の強くなりたい思いは強いが、集団の中での存在意義や人との関わりがうまくいかないと成長に行き着かない。誰か一人でもネガティブ要素があればよどみが出るし、全体がポジティブであれば相乗効果で成長できる。監督の仕事は柔道を教えること以上に環境を整えることだと知った」

 

 2月に4泊5日の強化合宿を大分で行ったのは、組織力を高めることに狙いがあった。未知の経験をテーマに掲げて、1日4度の練習を課した。これまでにない練習量の多さ、慣れない環境での24時間集団生活はストレスであったに違いない。相手に勝つことだけが強さだと思っていた選手たちだったが、仲間を思いやる気持ちや全員で合宿を乗り気るのだという思いが芽生え、互いに励まし、叱咤する姿が見られるようになったという。穴井監督は「今さら根性論ではないが、この合宿に比べたら苦しいことがあっても大丈夫と思えるものが作れた。個人で勝つことが前提にあるが、団体戦で勝つことの価値を感じてくれるようになってくれたらうれしい」と話す。目標は個人も団体も日本一。団体も個人も日本一と言わないのは、言葉を重んじ、選手個々の成長を重視する穴井監督のこだわりだ。

 

指導者として学び続ける穴井さやか監督

 

 

(柚野真也)