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トリニータU−18 躍進するアカデミーの現在地

トリニータU−18 躍進するアカデミーの現在地

 18歳以下の全国リーグ・プレミアリーグ昇格に向けて躍進するトリニータU−18。これまで幾人もの選手をトップチーム輩出した下部組織となるアカデミーには、プロの原石が控えている。クラブの未来を担うアカデミーの今に迫った。

 

サッカーの本質を貫く

 

 J1昇格プレーオフに向けて好位置をキープするトップチームに負けじと、弟分のユースチームもプレミアリーグ返り咲きを目指している。昨季プリンスリーグ九州1部に降格した大分トリニータU−18は、1年でのプレミアリーグ復帰に向けて、勝負どころのシーズン終盤戦を迎え期待が高まっている。

 

 ユースの指揮を執る鈴井智彦監督は今季就任した。大学卒業後にサッカー雑誌の出版社に勤務し、その後サッカーの本場ヨーロッパを拠点に取材活動を続けた異色の経歴の持ち主だ。帰国後は沖縄や秋田、栃木で指導経験を積み、選手育成に力を注いだ。その指揮官が、就任以来選手たちに求めてきたのは、「サッカーの本質」である。

 「ユース年代は技術の向上とともに勝利も目指すべき。それを考えるとパスをつなぐことも必要だし、直線的にゴールへ向かうダイレクトなプレーも必要となる。その状況判断を的確にできるかが重要だが、どんなプレーにおいてもハードワークであったり、1対1の球際、攻守の切り替えの速さなど戦う姿勢がなければ何も始まらないと子どもたちには伝えている」

 

 選手たちにも鈴井監督の要求はしっかりと浸透しているようだ。キャプテンの黒木樹生(3年)は、「僕たちの学年は毎年監督が代わり、監督がやりたいサッカーを理解するのは大変だったが、サッカー観が広がった。どんな監督でも共通しているのはサッカーの本質の部分。それが実践できることで結果につながっている」と語る。

 

「サッカー観が広がった」と語るキャプテンの黒木

 

サッカー環境は九州随一

 

 大分トリニータがクラブとして本格的にアカデミーの強化に乗り出したのは2005年と早かった。毎年のようにJ1残留争いを強いられた反省から、クラブは補強に頼らず、下部組織や生え抜きの若い選手で土台を固めていく「育成型のクラブづくり」に力を入れるようになった。若手の育成に定評のあるスタッフを招聘(しょうへい)するとともに、アカデミー選手用の寮を確保。県内外の遠隔地から優秀な選手を集め、育成する環境を整備した。また、育成環境への直接的なアプローチとは言えないが、2005年の西川周作、梅崎司(ともに浦和)から今年の野上拓哉(ヴェルスパ大分に期限付移籍中)まで20人もの選手をトップチームに昇格させたことも、県内だけでなく九州内の育成年代の選手たちの励みとなったはずだ。福岡県から越境し、寮住まいを決めた津村和希(高校3年)は「身近でトップチームの選手の練習を見ることができ、参加もできた。寮で話すこともできるし本当に良い刺激になった」と語っている。

 

 しかしながら、鈴井監督は現状を踏まえれば、まだまだ謙虚な姿勢で取り組んでいかなければならないと気を引き締める。「人工芝の練習場があり、寮からの送迎バスもある。九州では最高レベルのサッカー環境だが、全国には上には上がいる。全体の底上げを含め、少しでもレベルを上げるための試合や練習をやって、選手たちに刺激を与えていきたい」

 確かに、全国レベルのリーグ(プレミアリーグ)には2年しか在籍できずに降格し、今季はトップチームに上がる選手の名が現時点ではリリースはない。U−18を含め、その下のカテゴリーの水準を引き上げていくことは重要だろう。

 

福岡から越境しトリニータU−18に加入した津村

 

人間性の育成がプロ選手輩出につながる

 

 そうしたなかで、鈴井監督は競技力の向上だけではなく、人間性も育む指導を心掛ける。

「すぐにプロになれるような人材ばかりが集ってくるわけではない。やはり謙虚な姿勢を持ち、人間性を含めた選手の育成が大切。そういうものが巡り巡ってプロ選手の輩出につながっていくと思う」

 

 理想はコンスタントにプロ選手を輩出しながら、ジュニアクラス(小学1年〜)の子がトリニータでサッカーを続けて、トップチームに上がれるような選手を10年に1人でも輩出したいようだ。「ミスタートリニータと呼ばれる選手を育てたい」(鈴井監督)。ユース出身で、現在トップチームで活躍する選手は小手川宏基や岸田翔平、後藤優介ら8人。トップチームに昇格する選手のさらなる増加と活躍があればトリニータ熱は高まり、クラブへの愛着はより一層深まるはずだ。

 

 今年から育成支援組織の活動もスタートした。「しらしんけんクラブ」と名付けられたその組織は、広く協賛金を募って育成の活動をサポートしてもらおうというもので、しらしんけんとは、大分の方言で一生懸命という意味だ。「魅力あるアカデミー組織を構築し、アカデミーで育った選手が第2の西川、清武弘嗣のように将来トップチームや日本代表として世界で戦える選手をしらしんけんに輩出することを目標にしたい」という願いが込められている。

 

 育成型のクラブへ、そして日本でオンリーワン、ナンバーワンのクラブへ。もちろん一朝一夕になるものではない。揺ぎないクラブの思想や信念、そして今後のたゆまぬ努力なくして実現はありえない。

 

世界で戦える選手を輩出することが大きな目標となる

 

(柚野真也)

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