ヴェルスパ大分 新体制となり強固な基盤をつくる半年に 【大分県】
サッカー
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開幕から3連勝。西B組の首位に立った大分トリニータ快進撃の原動力となったのが、21歳の新戦力、パトリッキ・ベロンだ。延期となっていた第1節・滋賀戦。1点リードで迎えた後半11分のPKの場面で、相手GKの重心を見極め、冷静な一撃で逆方向へと流し込んだ。待望の加入後初ゴールは、勝利を決定づけると同時に、若きブラジル人の挑戦が、本格的に始まった。
その舞台裏が象徴的だった。キム・ヒョンウのシュートが相手DFの手に当たり、PKを獲得した。通常ならキッカーはキムである。だがベロンは英語で「プリーズ」と懇願した。「どうしても得点したいんだ」。その真っすぐな思いに、キムは葛藤の末にボールを託した。「絶対に譲りたくなかった。でも、普段から仲のいいベロンだから」。その信頼に応える一撃だった。キムが「1点以上の価値がある」と評した理由は、ゴールそのもの以上に、覚悟と責任を背負った姿にある。

ベロンは数字を欲していた。加入直後から評価は高かった。初練習後、伊佐耕平は「うまいし、礼儀正しい。すぐにチームの力になる」と語り、清武弘嗣も「感覚とリズムが合う」と絶賛した。それでも本人は結果で示すことにこだわった。異国の地で信頼を得る最短距離は、ゴールであると知っているからだ。
プレースタイルはクレバーそのものだ。相手が嫌がるポジションに立ち、技術と判断で局面を前に進める。ボールを受ける前に首を振り、次の選択肢を描いているからこそ、プレーに迷いがない。一人で突破するタイプではない。周囲を生かし、周囲に生かされる。ワンタッチ、ツータッチでテンポを生み出し、緩急をつけたパス交換で守備ブロックにわずかなズレをつくる。その隙を逃さず、精度の高いミドルシュートで仕留めるのも持ち味だ。
守備でも手を抜かない。前線からの限定的なプレス、コースを切る立ち位置、ボールを失った直後の切り替え。足元の技術に頼るだけでなく、走るべき場面では迷わずスプリントする。監督の求めに応える献身性が、周囲の信頼を厚くしている。

当初は「ボールを触りたい」という思いの強さから、中盤や最終ラインまで下がりすぎる場面もあった。だが今は違う。「自分が下がらなくてもボールが来る」。仲間を信じ、自分の立ち位置を信じる。その意識の変化がゴール前での存在感を際立たせている。無理にボールを触りにいかず、最も危険なエリアで静かに構える。その落ち着きこそ、21歳とは思えぬ成熟の証しであり、チームの攻撃に新たな厚みをもたらしている。
「ブラジルとは違うスピードと強度」。そう語る謙虚さもまた、武器だ。白い歯をのぞかせる無邪気な笑顔の裏に、環境に適応しようとする強い意志がある。結果に安堵(あんど)しつつも「これが最後にならないように」と笑う姿は、向上心の証しだ。
大分トリニータは今、確かな手応えを積み重ねている。その中でベロンの存在は、攻撃に新たな選択肢をもたらしている。若さと冷静さを併せ持ち、周囲と調和しながら自分の役割を果たす。そのプレーが継続できれば、助っ人の枠を超え、チームの軸の一人となっていくはずだ。次のゴールもまた、勝ち点とともに信頼を積み上げる一歩となるだろう。
(柚野真也)
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