大分トリニータ 有働夢叶 覚醒の刻 【大分県】
サッカー
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田中博監督の新体制が動き出したヴェルスパ大分は、実績ある即戦力を加えた総勢28人で「勝負の半年」に臨む。8月末にJFLリーグが始まる前に、クラブは特別レギュレーションの短期決戦「JFL CUP」で新体制の完成度が問われる。東西8チームずつのリーグ戦を経て、上位4チームがホーム&アウェイで最終順位を争う。緊張感は最初から高い。指揮官の言葉を借りれば、これは単なる前哨戦ではなく「挑戦の場」であり、「勝ち癖をつける場」だ。
田中監督が最初に掲げたのは、キャプテン不在という異例の選択だった。誰か一人に責任を預けるのではなく、全員が背負う。新加入が12人に及ぶ状況で、一体感を最短距離で形にするための仕掛けでもある。始動から1カ月、練習場では対話の量を意図的に増やし、やりたいことを落とさないように積み上げているという。ベースに据えるのは「ボールを大事にする」姿勢だ。後方からパスをつなぎ、保持して試合をコントロールする。観る者にとっても、選手にとっても、そこに「楽しい」が生まれるという確信がある。

もっとも理想だけではJFLは勝てない。近年は各クラブの強化は加速し、選手の質も体格もスピードも一段上がった。田中監督は「(地域リーグへの)降格の可能性」さえ口にし、リーグを甘く見ない。そのうえで、前線からのハイプレスを回避し、数的優位を作り出す難題にあえて挑む。JFL CUPは、そのトライを実戦でぶつけ、失敗しても修正できる貴重な期間でもある。
強化の狙いは明快だ。堀内省吾強化部長は編成を「力のある選手を入れた」と端的に語る。前線に経験と実績を持つ選手を加えたのは、得点という最も結果が出やすい場所に確かな武器を置くためだ。一方で、伸びている若い選手もいる。ベテランに任せきりにせず、融合が起きたときにチームは厚みを増す。さらに今季は、酷暑の昼間に試合をしなくていい日程が、ベテランのクオリティーを引き出す追い風になる可能性もある。計算は現実的だ。
そして堀内強化部長が何度も口にしたのが「半分で変えない」という考え方である。シーズン中には選手を入れ替えることができる期間が2回あるが、そこでチームを大きくつくり直すつもりはないという意味だ。この28人でまず半年間しっかりと土台をつくり、その積み重ねを次の期間、さらにその先へとつなげていく考えである。

見どころは二つある。一つは、守備の強度を土台にした主導権の握り方である。ただ引いて耐えるのではない。どこでボールを奪い、どう追い込み、どう次の一手につなげるのか。「こうすれば守れる」という共通理解をまず築く。その上で、奪った瞬間に前線のタレントへスイッチを入れる。守備は我慢ではなく、攻撃の起点だという発想である。ボールを保持する時間を増やしながらも、失った瞬間には全員が素早く切り替える。強度と判断の速さ。その両立が形になったとき、チームは試合の流れを自ら引き寄せることができる。
もう一つは、過度な期待に飲み込まれないことだ。実績ある選手の名前が並べば、周囲の期待は自然と高まる。「今年はいける」という声も聞こえてくるだろう。だが堀内強化部長は「それに頼ったら痛い目を見る」と強調する。肩書や過去の実績では勝てない。泥臭く、必死に、ひたむきに走り続ける姿勢こそが、このリーグでは結果に直結する。ベテランであろうと若手であろうと例外はない。全員が同じ基準で戦う覚悟を持てるかどうか。それがチームの真価を分ける。
短期決戦は流れがすべてを左右する。守備からリズムをつくり、勝利を積み重ね、勢いを生むことができるか。JFL CUPは単なるリーグ戦の前哨戦ではない。新体制の戦い方、そして集団としての覚悟がはっきりと映し出される舞台である。新しいヴェルスパ大分の姿が、この大会ではっきりと浮かび上がるはずだ。
(柚野真也)
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