【指導者の肖像〜高校スポーツを支える魂〜】 明豊を変えた情熱と信頼の力 明豊高校バスケットボール部監督・杉山真裕実(後編) 【大分県】
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3年連続5回目の全国高校バスケットボール選手権大会(ウインターカップ)に挑む明豊が、静かに熱を帯びている。U18日清食品ブロックリーグでは強豪相手に3勝4敗。勝ち越しはならなかったが、全国レベルのスピード、球際の強度を浴び続けた7試合は、確かな礎となった。杉山真裕実監督は「土台はできた。あとは枝葉をつけるだけ」と、淡々としながらも手応えを隠さない。
初戦の相手は和歌山信愛。高さのある留学生こそいないが、1対1の強さと突破力を武器に、序盤から主導権を握ってくるタイプのチームだ。油断すれば一気に流れを持っていかれる。杉山監督は対戦が決まった直後から映像を集め、徹底的にチェックし、相手の特徴を細部まで洗い出している。どの選手がどこで勝負してくるのか、どの局面で弱さが出るのか。強みと弱点を見極め、明豊が追いかける展開にならないようゲームプランを練り直す。「相手を知らずには勝てない。まずは相手を理解し、こちらが主導権を握る準備をする」。その言葉には、全国の舞台で1つでも多く勝ち進むための揺るぎない覚悟が宿っている。

チームを支えるのは、3年生たちの「役割」である。杉山監督の指導理念の核にあるのが「役割は選手の居場所である」という考えだ。誰もがチームの中で自分の価値を理解し、それを発揮することで全体が前へと進む。キャプテンの中島綾香はけがの影響で万全ではない。それでも「迷いなく役割を遂行できている」と杉山監督は胸を張る。
松下みのりは粘り強いディフェンスで相手の起点を潰す。平倉千春は持ち味の得点力を研ぎ澄まし、リングに向かう姿勢は以前よりも鋭い。下田来美はリバウンドの主軸としてゴール下を支配する。3年生の3人はこの1年でたくましくなった。「どんな相手でも動じない」。杉山監督がそう言い切るだけの経験値がそこにはある。
中でも平倉の成長は著しい。調子の波が大きかったプレーが、成功体験の積み重ねで安定しつつある。リズムに乗れば30得点近くを叩き出す爆発力は、明豊の最重要カードだ。本人も「気持ちの持ち方ひとつで変わる」と言い切る。
明豊が武器とするのは、磨き上げた堅守である。杉山監督は「ディフェンスのチーム。守りから流れをつくりたい」と語る。思いだけでは勝てない。だからこそ練習では細部の精度にこだわる。判断の速さ、足の運び、声のつながり、その一つひとつが勝敗を分けると理解している。

体育館の壁には「命がけ」と力強い文字が踊る模造紙が貼られている。県予選は、けがを負った中島のためにチームが一丸となった戦いだった。ただし杉山監督は言う。「誰かのためだけでは勝てない。最後は自分自身。死に物狂いで勝利をつかみにいく覚悟が必要だ」。その言葉は選手たちの胸に深く刻まれている。
目標はベスト8。遠すぎはしないが、決して楽な挑戦ではない。だからこそ選手は役割を果たし、チームは積み上げてきた土台と枝葉を武器に挑む。
(柚野真也)
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