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全国高校野球大分大会 グッドルーザー 遅球に誇りを貫いた中畑耀翔(中津北3年)の最後の夏 【大分県】

全国高校野球大分大会 グッドルーザー 遅球に誇りを貫いた中畑耀翔(中津北3年)の最後の夏 【大分県】

 高校最後の夏、中津北の左腕は誇り高くマウンドを降りた―。第2シードの大分舞鶴との2回戦。超軟投派エース、中畑耀翔は、8回途中まで全身全霊を込めてマウンドに立ち続けた。速球とパワーがものをいう夏の甲子園県予選、その中で異彩を放った。強豪相手にも一歩も引かなかった。

 序盤から中畑はち密な配球で舞鶴打線を幻惑し、狙い通りフライアウトを量産した。持ち球は80キロ台のストレート、緩急自在のチェンジアップ、緩やかに曲がるカーブ。球速ではなく打者のタイミングを外し、芯をずらして凡打を重ねる。速球全盛の野球において、中畑は「スピードを上げたくない」と真逆の道を突き進んだ。

 その覚悟の原点は中学3年時にある。当時の監督が「遅い球だからこそ武器になる」と告げた一言が、中畑の心を大きく揺さぶった。誰もが球速アップに心血を注ぐ中で、あえて遅い球に誇りを持つ。高校では外野手と投手を兼務しながら、最後の夏は誰よりも静かに燃えていた。

満を持してマウンドに上がった中畑耀翔

 この夏、エースナンバー1を託された。1回戦は外野手として出場し、2回戦は満を辞して登板。衛藤公二監督は「舞鶴打線をかわせるのは中畑しかいなかった」と秘密兵器として温存。勝負を懸けた一戦だった。舞鶴打線を相手に被安打13、96球で8回コールド負け。それでも「やり切った」と笑顔を浮かべた。三振ではなくフライアウトこそが美学。目指したのは軟投の美しさだった。

 「変化球でストライクが取れなかったが、試合の中で修正できた。3年間で一番いいピッチングだった。悔いはない」。試合後の中畑の声には清々しい達成感がにじんでいた。衛藤監督も誇った。「球は遅いが、それだけではないと示してくれた。最後は笑顔で終わろう、それが目標だった」。この夏、中津北は久々に1回戦を突破し、堂々と2回戦で散った。

 敗れたが、心には確かな証が刻まれた。速さではなく、芯を外し、空へ打たせて取る。 “遅球”の誇りを胸に、エースはマウンドを降りた。

冷静に勝負に挑んだ

(柚野真也)