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監督の哲学③ 「選手と一緒にチームをつくる醍醐味」鶴崎工業高校サッカー部・松田雄一監督

監督の哲学③ 「選手と一緒にチームをつくる醍醐味」鶴崎工業高校サッカー部・松田雄一監督

 自身の現役時代から指導者に至るまでの過去を振り返り、現在の指導法、今後のビジョンについて語る監督インタビュー企画。第3回は赴任した情報科学や中津東を全国選手権に5度、全国高校総体(インターハイ)に3度導いた松田雄一監督(鶴崎工業高校サッカー部)だ。理論派でありながら、勝負に徹する熱い一面を持つ指揮官が、監督として大切にしているものとは何なのか?彼の言葉のなかから、そのサッカー観に迫る。

 

選手の思いを尊重したチームづくり

 

 鶴崎工業高校に赴任して4年目、チームはすっかり松田雄一という指揮官に染まっていると思ったが、そうではない。「毎年、毎年、チームのつくり方も戦い方も違う。キャプテン、副キャプテン、選手が話し合い、ポゼッションなのか堅守速攻なのか、スタイルも目標も選手が骨組みをつくる。自分は目的地まで有効なルートを示し、準備するのが役割だと思っている」。自分色に染めるのではなく、選手が色を決めるのだと話す。松田は選手を鍛え、チームはよく走ると言われるが、「選手と一緒に約束事を決めてのこと。目標に向かってどういった練習をするのか、必要なことは何かと突き詰め、納得してから新チームがスタートする」。例えば、試合後に失点した2倍、3倍のダッシュを課すことや、試合の先発メンバーはキャプテン主体で決めるなど、互いの信頼関係で成り立つ。今も選手とはサッカーノートによるコミュニケーションで意思疎通を図っている。チームづくりにおいて松田は「選手と一緒につくることに醍醐味を感じる」という。

 

 松田は理論派の部類に入る監督だろう。試合では緻密に相手を分析して、チームを操り、話を聞けばシステムや戦術に関する話がよどみなくあふれてくる。ただ、理論派という印象は間違っていないのだろうが、それはひとつの側面でしかない。言葉の端々には、非常に感情的な部分を感じるし、試合中にはベンチの前で大きな声で選手に指示し、一喜一憂する熱い一面もある。

 自身のサッカー観に相当なこだわりを持っていそうな松田だが、「戦術なんて勝つための一つの手段であって、ピッチに立つ選手、リーダーとなるキャプテンに任せている」とさらりと言ってのける。そして、こう続けた。「昔は自分の理論や感覚を押し付けていたが、多くの指導者との出会いで考えが変わった。細かいことはもちろんあるが、最後は選手の気持ちがこもって一丸となっていれば強い。どんな戦術を駆使しても、気持ちがなければ成り立たない」との思いは強い。勝負において戦術の浸透度、相手の分析は大きな武器であるが、実際にプレーする選手の気持ちと組み合わされば勢いに乗り、爆発力を発揮することを全国大会に何度も出ることで確信した。

 

理論派であり熱血漢でもある松田雄一監督

 

多くの監督から指導者として必要なものを吸収

 

 

 松田がサッカーをはじめたのは小学6年のとき。当時盛んだったのは野球で、スポーツ少年団にサッカーはなかったが、サッカー好きなメンバーを集めてボールを蹴っていた。中学ではソフトテニス部に所属し、高校からようやく試合に出場できるようになるのだが、高校のサッカー部には指導者がおらず、悲哀に直面する。「練習はキャプテンの自分が考えていた。今みたいに簡単に動画を見ることができない時代。雑誌を買って、練習やフォーメーションを勉強した」。そこそこの結果は出るのだが、その後の壁を突き抜けるまでには至らなかった。試行錯誤し、さまざまな創意工夫を重ねて挑んではみたものの、結実することはなかった。だが、「そこで考える習慣を培うことができたことは、のちのサッカー人生に大きな影響を与えたと思う」という。

 大学は体育の教員になるために順天堂大学に進学。「サッカーが強くて、スポーツ医学も学べるので受験した。同級生は全国選手権で優勝、準優勝したメンバーばかり。大分の田舎から上京した者としては圧倒されたが、最高の環境でサッカーができた」と振り返る。

 

 初めて指導者にサッカーを教わり、レベルの高い仲間に多くの刺激をもらった。大学ではサッカー選手としてだけでなく、スポーツマンとして、一社会人としての立ち振る舞いを学んだ。卒業後は帰郷し、さまざまなタイプの監督と接してきた。そしてそのことが、自らの指導者人生において、大きな影響を受けてきたと語る。

 情報科学に赴任したときに指導者として多大な影響を受けた栗屋昌俊氏には理論と分析を学んだ。「相手を分析して、知識の上でサッカーを構築しないと強いチームにならない」。試合をビデオで撮って、チームの特徴、選手の長所や短所をミーティングで落とし込む。選手たちは「なるほど、やってみよう」と納得する。監督やコーチに言われたからやるのではなく、選手たち自身のモチベーションを刺激した。

 畑喜美夫氏(元広島観音高校監督)からは選手が自分で考え、自主性を学ぶボトムアップ理論を学んだ。できる選手が他の選手を指導する。「人に指導するとなると、間違ったことは言えない」。要点を整理し、言葉を洗練しておかないと、人に何かを伝えることはできない。「教えるとは教わること」を実践した。

 「強いチームの条件は?」という問いに関して松田はこう答えた。

 「プレーするのは選手。監督の示す戦術に対して、選手たちがしっかり理解してやることは前提だが、監督の顔色をうかがうような選手がいるチームは勝てない。団結力であったり、自己犠牲の精神であったり、勝者のメンタリティーであったり、そういうものを持っているチームは強い」

 松田は多くの監督から指導者として必要なものを吸収し、自らも監督として経験を積んでいくなかで、一番大切な要素を感じ取ってきた。

 

プロフィール

 

松田雄一

1968年1月12日生まれ、AB型、長洲中学→宇佐高校→順天堂大学

指導者として譲れないものは?

サッカー選手の前によき生徒であれ

勝てるチームの条件とは?

指導者、選手、親の連係が取れているチーム

高校生の自分にアドバイスするなら

指導者に頼るのではなく、自分で勉強したことが力となる

自己分析バロメーター

攻 撃 的 ○○●○○守 備 的

個 人   ○○○●○組 織

スペクタクル○○●○○リアリズム

理 論 派 ○●○○○感 覚 派

 

 

(柚野真也)

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