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それぞれの選択 カヌー・柚野秀斗(鹿屋体育大4年)

それぞれの選択 カヌー・柚野秀斗(鹿屋体育大4年)

 人生には岐路がある。競技人生に没頭する道もあれば、これまで続けた競技に別れを告げる道もある。確かな足跡を残したアスリートには「それぞれの選択」の物語があった。第1回はカヌーの柚野秀斗(鹿屋体育大4年)。

 

 高校からカヌーを始めて7年。日本カヌースプリント選手権大会を最後に競技人生に別れを告げた。今大会の主な成績はカナディアンフォア500㍍で優勝、同ペア200㍍で3位。来年の東京オリンピック会場となる海の森水上競技場で最後のレースを終えた柚野秀斗(鹿屋体育大4年)の表情は穏やかだった。「最後に五輪会場でレースができた。悔いはない。燃え尽きた」と静かに語った。

 

 この1年間はキャプテンとしてチームを引っ張り、支える役割に重きを置いた。選手の自主性を重んじる部でキャプテンの役割は大きい。「年間スケジュールを立て、そこから大会ごとの目標を立て、中期、短期でメニューを考える」。選手兼監督の二足のわらじは思いのほか大変だったという。

 

 昨年のインカレ(全日本学生カヌースプリント選手権大会)が選手として絶頂期だった。得意のシングル1000㍍で優勝し、6種目で表彰台に上がり大会MVPに輝いた。その実績が認められ、キャプテンに任命されたが自身の練習時間が削られ、思うような練習ができなかった。

 4年生になると将来の進路が問われる。競技を続けたくても競技人口の少ないマイナー競技は練習環境が整わない。「全てを競技に捧げる強い覚悟が僕にはなかった」と競技引退を決意し、就活や教育実習の合間に後輩を指導し、最後の夏に有終の美が飾れるように練習に励んだ。

競技人生に悔いなしと語った柚野秀斗

 

 ペアやフォアを組むことはあるがカヌーは基本的に個人競技だ。自分の実力が結果に直結する。「自分がやってきたことが成果となる。毎日成長できることが実感できるのがカヌーの魅力」と語る柚野は、小学生の頃から続けたバスケットボールをやめ、大分舞鶴高校入学を機にカヌーを始めた。当時指導していた高木宏通監督(現・高田高校カヌー部監督)は、「初めて艇に乗った時から日本一になると思った。器用だったが何より心肺機能が高かった」と語る。無尽蔵のスタミナを武器に積み重ねた練習で技術を磨き、高校時代は全国大会で日本一を経験した。

 

 大学進学後も成長を続け、国際大会に出場するまでになった。そんな柚野が今も忘れられない光景がある。昨年のインカレで自分を応援してくれる先輩や後輩がいた。その中にメンバーから外れた選手もいたが、客席から声を張り上げて応援してくれた。「個人種目でも一体感のあるチームは強い」。そう思えた時からカヌーが団体競技と思えるようになった。最後の大会では同級生や後輩が力を発揮できるように全力でサポートした。もちろん自分自身も結果を出し、「努力は身を結ぶ」ことを示したかった。「結果は微妙だったけどやれることはやった。昨年の方が楽しかったけど、今年の方が充実感はあるし、心に残った」。燃え尽きた火はともることはないが、いつの日か指導者として「カヌーで学んだことを伝えたい」との思いはある。

 

最後の大会ではカナディアンフォアで優勝した