OITA SPORTS

7/1 TUE 2025

supported by

シーアール

その他

トリニータ 開幕戦を読み解く 「つなぎ」と「シンプル」の併用

トリニータ 開幕戦を読み解く 「つなぎ」と「シンプル」の併用

 J1リーグの2019シーズンが開幕した。大分トリニータは開幕戦でアジア王者・鹿島アントラーズに敵地で勝利し、最高のスタートを切った。開幕戦を振り返り、J1仕様となった今季のスタイルを読み解く。

 

 今季の新体制発表の席で片野坂知宏監督が「これまで積み上げてきた自分たちのサッカーをJ1の舞台で思い切ってチャレンジできる戦力がそろった。アグレッシブなサッカーをしたい」と語ったように、開幕戦も昨季までの攻撃的スタイルで真っ向勝負。今季のスローガン「勇猛果敢」そのものだった。

 

 その先鋒を担ったのがGK高木駿だ。GKを含めた後方からのパス交換で攻撃を組み立て、相手のほころびを突いていく。この「つなぎ」は片野坂サッカーにおいて不変のもの。独特な緊張感が漂う開幕戦の雰囲気のなか、最終ラインでのボール回しのスムーズさを欠いたが、「ボールを動かし、(プレスを)はがしてチャンスをつくりたかった」(高木)と、臆することなくパスをつないだ。

 

 鹿島の守備の圧力に押し込まれた場面では、最前線にいるFW藤本憲明の飛び出しを生かすべく、シンプルな長いボールを効果的に使った。象徴的だったのは前半11分、高木の裏への長いパスに藤本が抜けて最初の決定機をつくった場面。これに関して、高木は次のように語る。「基本スタイルはこれまでと同じでつなぐサッカーだけど、そこを狙ってくる相手が増えてくるのは確か。そういうときにはシンプルな長いボールを効果的に使っている」と、状況に合わせたバリエーションを持ち合わせていることを明かした。

 

攻撃の起点となったGK高木駿

 

 開幕戦の先制点は最終ラインのDF福森直也の長いパスが起点となり、最後は前線3人のコンビネーションで崩した好例で、流れるようなパス交換で一気に侵略してみせた。こうした「つなぎ」と「シンプル」のバランスの良い攻撃を繰り出す源には、「理想的な選手間の距離」(藤本)がある。全体をコンパクトに保ち、絶えずポジショニングを修正することで、相手の攻撃を網にかけやすく、攻撃ではサポートに入りやすいのだ。もちろん、コンパクトさを保つために、トラッキングシステムデータが示したチーム全体の走行距離は見逃せない。鹿島戦での走行距離123.675㌔はリーグ1位だった。片野坂監督は「ただ走ればいいわけではない。必要なときに走り、戦術に合わせた走りが必要」と意に介さなかったが、選手が戦術を理解し、意識的に適切なポジション取りをした結果と言えるだろう。

 

 こうして「縦」の意識を高めたことで、本来のピッチの幅を広く使う「横」からの揺さぶりが効果的になる。開幕戦ではMF松本怜、FW高山薫の両サイドの選手は守備に追われることが多く、攻撃参加の時間は少なかった。ただ、同じシステムを採用する松本山雅FCとのホーム開幕戦では、サイドの攻防が勝敗を分けるポイントになりそうだ。片野坂監督は「34分の2がはじまるだけ。何も変わらない」と淡々と話したが、J3から積み上げたスタイルへの自信がうかがえた。ピッチの至るところで“あうんの呼吸”のようなコンビネーションが生まれてくれば、今季の目標である残留も早い段階で見えてくるかもしれない。

 

開幕2得点に続き、今節も得点が期待されるFW藤本憲明

 

(柚野真也)