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ヴェルスパ大分 金崎夢生 千両役者が示す勝者の流儀 【大分県】

ヴェルスパ大分 金崎夢生 千両役者が示す勝者の流儀 【大分県】

 開幕戦には、独特の重さがある。期待と不安が入り混じる空気、整いきらないコンディション、そして一瞬で流れが決まる緊張感。そのすべてを理解し、結果へと変える術を知る者は多くない。ヴェルスパ大分のFW金崎夢生は、その数少ない一人である。

 JFLカップ第1節。別府の地で迎えた開幕戦で、金崎は2得点を挙げた。前半36分、自ら得たPKを冷静に沈めて先制。さらに3分後、クロスのこぼれ球を押し込み、試合の流れを決定づけた。昨季に続く開幕ゴール。舞台が整えば、必ず結果を残す。まさに千両役者である。

 だが、その本質は数字だけでは測れない。ピッチ状態は決して良くなかった。本来志向する後方からの攻撃の組み立ては難しく、ロングボールが増える展開。それでも金崎は迷わなかった。「状況に合わせて勝つ。それもサッカー」。その言葉通り、最前線で体を張り、ボールを収め、守備では誰よりも走る。前線からの圧力は相手のリズムを狂わせ、チーム全体に落ち着きをもたらした。

前線からボールを追う金崎

 田中博監督が掲げるのは、守備を起点としたサッカーである。「まずは崩れないこと」。その思想は、この一戦で明確に形となった。藤崎将汰と中塩大貴を中心とした最終ラインが統率し、前線では金崎と瓜生昂勢が連動してプレスをかける。守備の安定がボール保持の時間を生み、その先に得点がある。理想の完成形ではない。それでも、勝つための最適解を選び取ったことに価値がある。

 藤崎は言う。「夢生さんは誰よりも準備をして、誰よりも真剣に取り組む。プロ中のプロ」。37歳になった今も、誰よりも早く練習場に現れ、誰よりも長く体を整える。その積み重ねが、開幕戦という舞台での結果につながる。偶然ではない。必然である。

 別府開催という特別な意味もあった。ホームタウンでの初戦。負けることは許されないという空気が、選手たちの背中を押した。だからこそ、この勝利は単なる1勝以上の価値を持つ。地域とともに歩むクラブにとって、結果は何よりのメッセージになる。

「チームの勝利が全て」と言い切る

 もっとも、金崎自身は現状に満足していない。課題として挙げたのは「最終ラインからつなぐこと」。この日はピッチコンディションの影響もあり、ロングボールを選択せざるを得なかったが、それはあくまで状況に応じた判断に過ぎない。本来目指しているのは、後方から丁寧につなぎ、主導権を握るサッカーである。新体制はまだ構築の途上にある。「一つ一つ積み上げていく段階」。その言葉に、ベテランの冷静な視線がにじむ。

 次戦はジェイリースFCとの大分ダービー。熱を帯びる舞台で問われるのは、再び「勝ち切る力」である。金崎は言う。「目の前の一試合に全力で向き合うだけ」。その姿勢は変わらない。だからこそ、チームはぶれない。

 勝利の意味を知る男がいる限り、ヴェルスパ大分は簡単には崩れない。開幕戦で示したのは、完成ではなく指針である。勝つために何を選び、何を捨てるのか。その判断を体現する背番号87が、今季も最前線に立ち続ける。


(柚野真也)