大分舞鶴高校ラグビー部 ワガイヴォラヴォラ・ジョセフ・トゥイ・ウィリアム(2年) file.897
ラグビー
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ピッチに立つだけで、空気が変わる。185センチ、105キロ。重厚な体躯を揺らしながら前に出る江里口真弘(大分東明高校出身)は、今季加入したラグビーリーグワンのルリーロ福岡で開幕から先発の座を譲らない。ボールキャリーでは確かな前進をもたらし、タックルでは流れを断ち切る。目立つタイプではない。だが、確実に流れを動かす仕事を積み重ね、チームの歯車として不可欠な存在になった。
原点は、大分東明時代にある。花園出場に届かなかった世代だったが、土台を築いたという自負がある。「生活の中心にラグビーがあった」。その言葉どおり、競技への没入は早かった。小学4年でラグビーに触れ、「楽しい」という直感に導かれ、越境入学で大分東明へ。県外で勝負する選択は、挑戦を選び続ける姿勢の始まりだった。

花園未経験のまま進んだ先は帝京大学。全国屈指の競争環境で待っていたのは、フィジカルもスキルも一段上の選手たちだった。高い壁を前に、江里口は「試合に出られるかどうかは自分次第」と腹をくくる。与えられる立場ではなく、奪い取る立場として、日々の練習に意味を見出すしかなかった。
転機は大学2年。単に強く、速くなることを追う段階を越え、「なぜそのプレーを選ぶのか」「その判断はチームに何をもたらすのか」を自問するようになった。タックル一つ、キャリー一つにも意図を持ち、局面ごとの最適解を探る。その積み重ねが判断の精度を高め、プレーの再現性を生んだ。
自分で考え、選び、実行する。受け身だったラグビーは、主体的に組み立てる競技へと姿を変えた。その思考の習慣こそが江里口の競技観を一段引き上げ、現在のプレーを形作る礎となっている。
卒業後は地元・福岡に戻り、九州電力キューデンヴォルテクスに加入した。ディビジョン2という高いカテゴリーで、社員選手として過ごした2シーズン。安定した環境は、同時に葛藤も生んだ。仕事とラグビーを両立しながら戦う日々の中で、心に芽生えたのは「もっとラグビーに没頭したい」という思いだった。競技人生が永遠ではないことを自覚したとき、安全な道にとどまる理由はなくなった。退社という決断は容易ではない。それでも江里口は、自らが納得できる挑戦を選び取った。

選んだ新天地は、ディビジョン3で戦うルリーロ福岡。カテゴリーは一つ下がったが、志まで下げたつもりはない。プロを目指した挑戦の延長線上に、いまの自分があるという認識は揺るがない。先発の座を「勝ち取った」という感覚もない。出ている以上、経験を最大限に還元するだけ。その実直さが、自然と信頼を積み上げてきた。強みはセットプレー。ラインアウトとモールで攻守に存在感を示し、「見れば分かる武器」を磨き続けている。
現在は介護の仕事と競技を両立する日々だ。フルタイムで働き、夜は練習。体力的に厳しい現実はある。それでも、生活のすべてを懸けてラグビーと向き合う姿勢に、迷いはない。今季に懸ける思いは明確だ。持てるすべてを出し切る。チームを強くすることと、自身が上を目指すこと。その両立を本気で追い続ける姿勢こそが、江里口の真骨頂である。勝利が積み重なれば、評価も景色も変わる。重戦車は静かに、しかし確実に、次の扉を押し開けようとしている。
(柚野真也)
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