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大分トリニータ シーズン総括 迷走の一年 得点力不足の果てに見た現実 【大分県】

大分トリニータ シーズン総括 迷走の一年 得点力不足の果てに見た現実 【大分県】

 大分トリニータの今季は、8勝14分16敗、勝点38の16位。総得点27はリーグワーストだった。数字が物語るように「点を取れないチーム」として終わった。4連敗でシーズンを締めくくり、敵地で水戸の初優勝と昇格を見届けるしかなかった光景は、このクラブにとって忘れがたい傷跡となるはずだ。

 本来、掲げていた目標は6位以内。開幕当初は「いい守備からいい攻撃へ」というコンセプトのもと、ミドルブロックをベースに粘り強く戦っていた。ところが勝負どころでの失点癖と決定力不足が重なり、勝ち切れない試合が続く。新戦力の有馬幸太郎や天笠泰輝が台頭しても、攻撃の再現性は高まらず、気がつけば9戦未勝利という長いトンネルに迷い込んでいた。責任を負う形で片野坂知宏監督は夏に解任された。

 バトンを受けたのはヘッドコーチから昇格した竹中穣。最悪のタイミングで指揮を託されながら、竹中監督はまず守備の立て直しに着手した。ボール保持と前進のバランスを整理し、意図ある攻撃の組み立てを徹底。理論を押し付けるのではなく、選手の自発性を引き出すスタイルでチームの空気を変えた。残留という「最低限」は果たしたが、本人は「ゴールという結果に結びつかなかった。責任はすべて自分にある」と語る。守備の整備に比べ、攻撃の上積みは限定的だったという自己評価である。

4連敗でシーズンを終えた竹中監督

 クラブ在籍12年目のFW伊佐耕平は、このシーズンを「埋められなかった最後の1割」と表現する。前半を0―0で耐え、後半に勝負をかける。そんな試合で、負けてはいけない球際で競り負け、通してはいけないパスを許す。勝負どころで踏ん張れずに失点するパターンが、一年を通して続いたと振り返る。「9割までは積み上げられても、残り1割がなければ全部が無駄になる」。失点に慣れてしまう怖さを口にした言葉には、チームのメンタリティへの危機感がにじむ。

 攻撃面でも、守備的なゲームプランの中で前線はもどかしさを抱えた。「やるべきことはやっていた」と伊佐は言う一方で、ゴール前の一歩、ラストパスの精度、決め切る力。そのすべてがわずかに足りなかった。最終節の水戸戦では、その不足が如実に表れた。優勝チームに対し、攻撃面でほとんど何もできなかったという現実。その手応えのなさこそが、今季を象徴するギャップであり、積み上げてきた“9割”を覆す厳しさを突き付けた試合だった。

 今季から加入したMF天笠泰輝も、悔しさを隠さない。最終節について「完全に水戸のゲームになってしまった」と語り、自分たちのサッカーを出せなかったことを何度も繰り返した。相手は徹底して大分の狙いを消してきたが、そこで別の選択肢を提示できなかったことを課題と捉える。「何も残せずに終わってしまった」と自己評価は厳しいが、主力としてフルシーズン戦い抜いた経験は、何よりの糧であるはずだ。

最終戦は敵地で水戸の初優勝とJ1昇格を見届けることになった

 竹中監督は退任し、来季は四方田修平新監督がチームを率いる。守備のベースは整い始めている。あとはリーグワーストの得点力をどう改善し、試合終盤の「勝負弱さ」を払拭できるかだろう。竹中監督は自らの責任を背負い、伊佐は「最後の1割」の重さを語り、天笠は「何も残せなかった」と悔しさを飲み込んだ。この三者の言葉をつなぎ合わせると、今季の大分が直面した問題は、戦術や個人の能力だけではなく、日々の積み重ねとメンタルの部分にまで及んでいたことが見えてくる。

 小さな差を笑う者は、小さな差に泣く。水戸の歓喜を横目に、ピッチに立つ選手たちはその現実を痛感したはずである。大分トリニータが来季以降、本当の意味で「J1昇格」を口にできるクラブへと変わるために必要なのは、戦術のアップデートだけではない。悔しさを研ぎ澄まし、最後の1割を日常から埋めていく覚悟である。新体制の船出は、その覚悟が本物かどうかを問うシーズンになる。


(柚野真也)

大会結果