大分上野丘高校ラグビー部 佐藤武信(3年) file.827
ラグビー
グッドルーザー④ ラグビー大分舞鶴 王者陥落の涙は新たな歴史のはじまり
スポーツにおいて勝つために必要な要素は、ひたむきさであり、競技への純粋な愛や情熱であったりする。勝者はその思いが誰よりも強い。敗者は次の勝者になるために心血を注ぐ。今年も晴れ舞台を目指し、県予選を戦った高校生たち。全てを出し切り笑顔を見せる者。悔しさで表彰式では素直に喜べなかった者。ここでは、あと一歩及ばず全国に届かなかった「美しき敗者」を追った。
第99回全国高校ラグビー県予選決勝で大分舞鶴が14-17で大分東明に敗れ、34連覇を逃した。花園出場を逃したのは1985年に大分水産(現・海洋科学)に決勝で敗れて以来のこと。長い間輝き続けたからこそ、敗戦の影は濃かった。
勝つことを義務付けられた大分舞鶴にとって、今大会のプレッシャーはいかばかりだったのか。今年2月の県新人大会で大分東明に初黒星を喫すとともに5-36の大敗。県高校総体では2点差で辛くも逃げ切ったが、王者のプライドを取り戻すには至らなかった。県新人大会終了後にキャプテンの山田大斗(3年)が語った「伝統、プライド、自分たちの置かれている場所、全てを失った」という言葉は舞鶴フィフティーン全員に共通するものだった。だからこそ花園という特別な舞台へかける思いはどこよりも強かった。
決死の思いで挑んだ今大会の決勝。試合は前半3分に先制トライを許したものの、決して悪い流れではなかった。積極的にボールを動かしながら前に出てくる東明に手を焼きながらも、強固なディフェンスを見せ、同7分、19分には東明ゴール前のラックから得意のFW戦で押し込み2トライを挙げ、14-7と逆転に成功する。東明のミスに助けられた部分もあったが、“らしさ”を存分に発揮した展開だった。前半終了間際にPGを与え、14-10と僅差のリードで折り返したが焦りはなかった。
決勝で見せた闘志は揺るぎないものだった
しかし、後半10分に逆転トライを許すと、気持ちが先走りミスが多くなった。「自分たちが我慢できなかった。勢いに飲まれてしまった」(竹部力・3年)。必死のアタックを続けるも、10分、15分…無情に時間が過ぎていく。王者に諦めの姿勢は一片たりとも見受けられなかったが、大分東明の圧力は強く、ゴールにあと一歩、届かなかった。ノーサイドの瞬間、大分東明が初優勝の喜びを爆発せる中、天を仰ぎ、地に伏した舞鶴フィフティーンの姿は今も目に焼き付いている。勝者と敗者のコントラストが色濃く残った試合だった。
試合後、堀尾大輔監督は「よくやった。最後まで逆転トライを信じることができた。支えてくれた方に毅然とした態度で感謝を伝えよう」と選手をたたえた。山田は「今日まで悔いのない練習をしてきた。その部分ではやり遂げたという思いが強い。監督、仲間、見守ってくれた保護者など支えてくれた全ての方に感謝したい」と話し、前半見事なトライを決めたゲームキャプテンの竹部は「自分たちのやってきたことは全て出した。悔いはない。東明が強かった」と涙にぬれた瞳を伏せることなく語った。それは負けてもなお王者の貫禄を感じさせるものだった。
伝統校の誇りと夢は後輩に託され、また新たな歴史を刻んでいく。
最後まで勝利を信じたが、かなわなかった
(甲斐理恵)