現役プロが熱血指導 大分に広がる「バスケの灯」 【大分県】
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敗者の涙② 全国高校バスケットボール選手権(ウインターカップ)女子県予選 大分 あれから10日後、3年生の思い
勝者と敗者を分かつことが酷に思える熱戦だった。全国高校選手権大会(ウインターカップ)県予選の女子決勝。試合終了のブザーが鳴り響くわずか数秒前に放たれた3点シュートが決まり、中津北が86-83で劇的な勝利を収めた。晴れ舞台を目前に涙をのんだ大分・井場田卓監督の言葉がすべてを表していた。「悔しいけど本当にいい試合だった」。緊張で硬さのあった第1クオーター(Q)で8点のリードを許したが第2Qで逆転、終盤はきびきびとした攻防が緩むことなく続き、最後までどちらが勝つか分からない試合だった。
キャプテンの成松朋華(3年)は、「悔しかった。試合が終わった後は何も考えられず落ち込んだ。あの場面でシュートを決めた相手がすごかった。今は歴史に残る試合ができたし、いい終わり方ができたと思っている」と振り返る。最後の試合となった決勝戦から10日後、体育館で下級生を指導する3年生の姿があった。チーム最多の26点を挙げた奈須彩乃(3年)は「私が目標だった30点を決めていれば1点差で勝っていたのに」と悔し涙を浮かべ、山田晶(3年)は「やりきったと思いたいが、もっとできたのではないかとも思う」と本音がポロリ。大学進学後も競技を続ける水田七葉(3年)は、「調子が上がっていただけに残念。大学では絶対にインカレに出る」と目標を切り替える。それぞれ思うことがあるが、共通していたのは「もっとみんなとバスケがしたかった」だった。
中高一貫校の大分は現高校3年生が中等部に入学した時に女子バスケットボール部が創部。彼女たちの歩みとともに3年後に高等部も創部し、6年間で強化を図った。中等部では県制覇し、九州大会でもベスト4入りするなど実績を残した。高等部では鮮やかなデビューで4強に食い込んだ。頂点を取ることは容易と思われたが、そこから苦悩が続く。
決勝で敗れ、泣き崩れた大分の選手たち
一人一人の技術は高く、シュート成功率も高い。圧倒的な攻撃力で強豪校をなぎ倒したが、最後の壁となった中津北の強度の高い守備を破ることができなかった。技術で勝っても勝負に勝てない。対戦相手の口から大分のスタイルを評価する声、脅威に感じるという声が出ることも少なくなかった。それでも優勝を逃したのは「持ってない」という運、不運が関わる要素以外でも、何かが足りないということだ。主導権を握りながら、終盤に逆転された。2年間、あと一歩のところまで追い詰めるが準優勝に終わる日々を過ごす。
勝ちきれない要因を洗い出し、乗り越えるための戦いが続いた。エースの秋吉楓(3年)に続く得点源として有墨遥野(3年)が独り立ちし、さらに奈須が急成長。武器である攻撃力は威力を増し、徹底的に走り込んだことで粘り強い守備も手にした。全学年がそろった今年度は選手層が厚く、これまでの強化が結実した。7月の県高校総体では優勝を遂げ、悲願のウインターカップ出場で総仕上げとなるはずだった。
ウインターカップ県予選では試合の入りこそ悪かったが、尻上がりに調子を上げ、どの試合も圧勝した。決勝戦も悪くなかった。ただ、他校にあって大分になかったことがあった。「これまでいろんな大会を経験したけど、“高校最後”の大会は始めてだった。私たちには先輩がいないので、どんな思いでこの大会を戦ってきたのかは分からなかった」と秋吉。中津北との“差”は、これまで時間をかけて勝ち負けを繰り返し、泣いたり笑ったりした先輩たちが築いた時間であり、歴史の差だったのかもしれない。有墨も、その“差”を実感した一人だ。「後輩たちにはこんな思いをしてほしくない」。ベンチで見守った古門美咲(3年)も勝利を信じて疑わなった牧唯夏(3年)も後輩へ託す思いは同じだ。
3年生が高校最後の大会で味わった悔しさを間近で見た1、2年生は何を感じたのか。栄光を寸前で取り逃した“置き土産”は示唆に富んでおり、飛躍を遂げる糧とできれば“大分時代”が間もなく到来するはずだ。
確かな歴史を築いた3年生たち
(柚野真也)