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TURNING POINT 〜つきぬけた瞬間〜 #03 「まだまだ俺はこんなもんじゃない」(小畑武尊・ダッシュ東保ボクシングジム)

TURNING POINT 〜つきぬけた瞬間〜 #03 「まだまだ俺はこんなもんじゃない」(小畑武尊・ダッシュ東保ボクシングジム)

 競技人生におけるターニングポイントに焦点を当てた連載。今回は新人王と日本ランキング入りを懸けた戦いに敗れたが、世界に向けて再起を目指す19歳のプロボクサーに迫る。

 

 一発のパンチで形勢が一転する。昨年12月末に行われたボクシング全日本新人王決定戦ライト級、小畑武尊はリングの上にいた。「1ラウンドは作戦通りだった」と振り返るように、パンチ力のある相手に対し、腕を振り抜かれないよう接近戦に持ち込んだ。慎重に試合を運び、相手がスタミナを消耗した後半戦が勝負となるはずだったが、第2ラウンドにカウンター気味の右ストレートを受けダウン。「あの一発で足にきた」と小畑。踏ん張りが効かず、クリンチで逃げようとしたが、相手の勢いは止まらず2度目のダウンでレフリーストップとなり試合を終えた。通算成績は9戦5勝(1KO)3敗1分となった。

 

 3歳の頃から父親の影響で空手を始めた小畑は、別府商業高校入学を機にボクシング部に入る。ボクシング漫画「はじめの一歩」を読み、興味を持ったのが始まりだ。もともと「強くなりたい」と漠然とした思いがあり、空手では見つけられなかった「強さとは何なのか」を求めた。しかし、有効打の数で採点し優劣をつけるアマチュアボクシングに、“どつきあい勝負”を好む小畑は違和感を覚えた。

 

 「お前のボクシングスタイル、性格はプロ向きだ」。現在所属するダッシュ東保ボクシングジムの東保佳秀会長の言葉に後押しされ、プロボクサーを目指したことがターニングポイントとなった。「つらいことが圧倒的に多いが辞めたいと思ったことはない」。毎日の練習に弱音を吐くことなく、黙々と練習を重ね、高校在学中の2015年9月にプロライセンスを取得する。同年12月にプロボクサーとしてのデビュー戦に臨むが4ラウンドTKO負け。黒星スタートとなったが、「俺はこんなもんじゃない」と気持ちを切り替え、次の試合に備えた。1年弱を要したが、プロ4戦目で判定ながら初勝利を飾った。勝者に注がれる拍手に「強くなりたいだけでなく、応援してくれる人のために勝ちたい」と思うようになった。

 

アマチュアからプロへの転向がターニングポイントとなった

 

 試合に勝つためにコツコツと準備をする。この分かりやすく、地道な作業が小畑は心地よかった。傍で見守り、指導してきた東保会長は、「プロになった当初は口数も少なく、闘志を内に秘めるタイプだったが、今も昔も負けん気が強く、厳しいトレーニングにも根をあげることはなかった」と小畑を評価する。

 

 頑張っている人間のエネルギーは、見る者に何かを与える。小畑が2戦、3戦と勝ち進むとジムは活気づき、小畑を応援する後援会が立ち上がった。フェザー級から2階級上げてライト級になり、減量苦からパワーダウンしていた持ち味の接近戦にキレが戻り、勝負ができるようになった。

 

 決して器用なタイプのボクサーではない。相手にパンチをもらうことは多いが、歯を食いしばって耐え、それ以上のパンチを相手に打ち込む。「(パンチを当てて相手との距離をとる)ヒット&アウェイは練習しているが、試合になるとどつきあいになる」と話す根っからのファイターは、「相手を倒すこと」を信条とする。そのスタイルに魅せられて応援するファンは多い。

 

 全日本新人王のベルトを持ち帰ることはできなかったが、気持ちを切り替えている。「久しぶり(6試合ぶり)の負けだった。前回の負けより比べものにならないほど悔しい」と、背負うものが大きくなった分だけ悔しさも大きくなった。「まだまだ俺はこんなもんじゃない」と再起に向けて動き出した。「日本タイトルに挑戦して、そして世界を獲る」。年末に味わった悔しさを糧に飛躍を遂げることができれば、2度目のターニングポイントが訪れるはずだ。

 

日本タイトル、そして世界を獲ることが目標 

 

(柚野真也)